歯周病は万病の源

歯周病は万病の源 日に3回は歯磨きを

昭和大学名誉教授 戸塚共立第1病院・戸塚共立あさひクリニック 名誉顧問
戸塚共立あさひクリニック 腎・リウマチ内科
杉崎 徹三〈すぎさき てつぞう〉医師

歯周病とは?

歯周病は、世界の成人の2人に1人は発症すると言われており非常に多い疾患です。
歯周病と聞くとそれって歯だけの病気?と思いがちですが、実はそうではないことが解かってきています。
歯周病は歯ぐきへの細菌やウイルスの感染、炎症によって発症するものですが、これに続いて歯の喪失や全身性の病気を引き起こす可能性があります。
例えば、心筋梗塞や動脈硬化症、がん、中でも上頚部がんや消化器のがんとの関係が深いと言われています。また、糖尿病や自己免疫疾患、特に関節リウマチの発症と関連があります。さらには認知症の中でもアルツハイマー病、そして気管、肺疾患、更には妊娠への悪影響など全身性の病気の原因になることが報告されるようになりました(1)(図参照)。(2)
歯周病が全身に及ぼす影響のメカニズムとして、病原菌やウイルスそのものが感染する場合と、歯周病による炎症因子(腫瘍因子―α、インターロイキン―1α、プロスタグランジンE2など)など副産物による影響が考えられます。口腔内は血管が非常に多く、病原因子は容易に血管内に移動し、病気の発症の原因となったり、また病気を増悪させたりすると考えられます。

以下これらの疾患について説明します。
① 心血管疾患
動脈硬化病変には悪玉コレステロールを中心とした塊(アテローム)ができますが、その中に多くの口腔内細菌が発見されています。それらが血管内で暴れだし、炎症を起こし、最終的に剥離、そして脳血栓症や心筋梗塞を引き起こす可能性があります。
② 肺疾患
歯周病になると口腔内細菌が肺に侵入し、肺炎の頻度が3倍になるとされ、更に認知症を合併すると、その頻度が倍増すると言われております。
③ がん
ある種の歯周病菌が上頸部、膵臓、肺、食道、結腸、直腸などのがん組織の中に検出され、発症との関係性が報告されております。(3)
④ 糖尿病
糖尿病は高血糖を特徴とする糖代謝異常ですが、口腔内の肺炎菌やエンテロウイルスが糖の代謝と関係し、高血糖をもたらし、また高血糖が持続すると口腔内細菌も繁殖しやすくなるとされ、悪循環に陥る恐れがあります。
⑤ アルツハイマー病
アルツハイマー病の脳組織内に歯周病菌が認められたとの報告があります。歯周病によって起こる炎症と相俟ってアルツハイマー病の進行を促進する可能性があります。(4)
⑥ 神経関連疾患
過度のストレスや鬱状態、重度の睡眠障害により口腔衛生の維持が難しくなると、歯周病を起こすとされ、更に歯周病が当疾患を悪化させるといった悪循環をもたらす可能性があります。また、歯を失うこと自体が認知症を進行させるようです。
⑦ 骨粗鬆症
この疾患は通常閉経後に起こる疾患ですが、当疾患により歯槽骨の骨密度が減少し、歯周病が発症し易くなることも忘れてはなりません。骨粗鬆の薬が歯周病の予防にもなります。
⑧ 妊娠
妊婦の4割が、ホルモン・バランスが崩れた結果、歯周病にかかっているとの統計があります。妊娠への影響としては、歯周病菌が胎盤を通過し、胎児の血中に侵入し、胎児の発育障害や自然流産に影響を及ぼす可能性が心配されます。
⑨ 薬剤
免疫関連疾患(関節リウマチを始めとする自己免疫疾患など)やアレルギー疾患に使用される副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤などを長期間使用することにより、歯槽の構造が破壊されると同時に、細菌感染がおこりやすくなり、歯周病がさらに進行する可能性があります。
⑩ たばこ
喫煙は言わずと知れた万病の源ですが、たばこの煙は口腔内の殺菌力を低下させ、細菌の増殖に拍車をかけ、歯周病を進展、増悪させます。禁煙以外、これを防ぐ方法はありません。(5)

このように歯周病と関連する多くの疾患がありますので、日常診療に携わっている臨床医は、歯周病とそれに関連する疾患について、患者さんたちにもっと啓蒙を図る必要があると思います。そのためには、歯科医師と医師、特に内科系医師との連係プレイが重要です。
ちなみに私は朝食後と昼食後に歯ブラシ、就寝前には歯ブラシとデンタルフロス、歯間ブラシ、そしてジェットウォシャーを使っています。最近、風邪をひかなくなったのも口腔内を清潔に保っているためだと思います。また、歯の保全のためには日光浴やビタミンD入り牛乳、植物油の摂取などにより、ビタミンDの体内濃度を保つことが重要と言われています。(6)
というわけで歯は長寿の源です。皆さま大事に使いましょう。
 

文献
(1)Ye L et al. Interaction between apical periodontitis and systemic disease. Review Int Mol Med 2023;52(1)60
(2) Kwon T. et al. Current concept in management of periodontitis. Int Dent 2021;71(6):462-476
(3)Baima G et al. Periodontitis and risk of cancer. Mechanistic evidence. Periodontol 2000, 2023 Dec 15
(4)Asher S et al. Periodontal Health, cognitive decline, and dementia: A systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. J Am Geriatr Soc
2022;70(9):2095-2709
(5)Alwithanani N. Periodontal Disease and Smoking: Systematic Review J Am Geriatr Soc 2022;70(9):2695-2709
(6)Ling F et al. Association of vitamin D in indivisuals with periodontitis an updated sys Temic review and metaanalysis. BMC Oral Health 2023;23(1):387
文献1より引用 杉﨑により改変