知っておきたい心臓の病気

心臓弁膜症について

戸塚共立第2病院 循環器センター(ハートセンター)
心臓血管外科部長
濱石 誠 医師

資格:
医学博士/日本外科学会専門医・指導医/心臓血管外科専門医・修練指導医
日本循環器学会認定循環器専門医/日本脈管学会認定脈管専門医
アジア心臓血管胸部外科学会国際会員/厚生労働省指定臨床研修指導医

はじめに

心不全の原因疾患として心臓弁膜症があります。
心臓弁膜症の有病率は、年齢とともに上がり、65~74歳で8.5%、75歳以上で13.2%との報告もあります。
心臓弁膜症は65歳以上の約10人に1人が罹る疾患であり、超高齢社会では今後も増え続ける疾患です。

心臓の機能と構造

心臓は血液を全身に循環させるポンプとして機能しております。心臓は心筋という筋肉で構成され、心臓には四つの部屋があり、それぞれ「右心房」、「右心室」、「左心房」、「左心室」といい(図1)、血液はこれら四つの部屋を循環しております。
血液が一方通行に流れるように各部屋の出入口に逆流防止の弁があります。心臓には全部で四つの弁があり、それぞれ「大動脈弁」、「僧帽弁」、「三尖弁」、「肺動脈弁」といい、これらが心臓の弁です(図2)。

心臓弁膜症

心臓弁膜症とは、心臓弁が病的に変化して狭窄や逆流を生じ、弁が正常に機能しない病気です。
「狭窄症」と「閉鎖不全症」があり、狭窄症は弁がしっかり開かず血液が駆出しにくくなる状態(図3)、閉鎖不全症は弁がしっかり閉まらず血液が行き来する状態です(図4)。成人では、大動脈弁狭窄症や大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症の患者を多く見受けます。

経過と症状

心臓弁膜症になると、弁が正しく働かないため、血液を効率よく送り出すことができず、心臓に負担がかかります。そのまま放置すると、心臓の筋肉が痛み、心臓が大きくなったり、危ない不整脈が生じたり、心臓の機能が低下します。また、全身の臓器への血流障害が生じ、肺や肝臓はうっ血状態になります。最終的には心不全に陥り、動悸、息切れ、胸痛、浮腫、倦怠感などの症状が現れ、生活の質は下がり生命予後は悪くなります。初期の段階では、すぐに症状は現れません。時間の経過とともに心臓の負担が増えると、症状はじわじわ進行します。なお、体が慣れて自覚症状に乏しい場合もあります。

心臓が限界に近づくと、息切れや呼吸困難、動悸、胸痛、全身や下肢の浮腫など症状が現れます。自覚症状が現れることは病気が末期へ進行している状態です。心臓が限界に達すると、生命の危機状態であり、突然死することもあります。

検査と治療

心エコー検査で心臓弁膜症を診断し、弁膜症の重症度を軽度、中等度、重度に分類します。
治療には、薬物治療と手術治療があります。薬物治療は、心臓にかかる負担を抑えて病態の進行を抑える治療であり、心臓弁を修復する治療ではありません。手術治療は、心臓弁を修復する治療であり、心臓弁膜症の病態を改善する治療です。

最新の心臓弁膜症治療指針としては、近年、世界的規模でガイドラインの改正が行われ、生活の質と生命予後を改善するために早期介入と早期治療が推奨されており、病態と重症度に応じて至適時期に適切な治療(薬物治療・手術治療を行います。
軽度および中等度の心臓弁膜症では、薬物治療で心臓の負担を軽減し、定期的に心エコー検査で重症度と心機能を評価する保存的治療を行います。
重度の心臓弁膜症では、正常に機能しない弁の修復を検討します。心不全症状がある、あるいは心機能低下や心拡大を認める場合には、手術治療が推奨されます。
手術治療の時期が遅れると、その間も心筋障害は進行し、手術で弁を修復しても障害を受けた心筋は改善しないので、生活の質と生命予後を改善する効果は乏しくなります

心臓弁膜症の手術治療

壊れた弁を元通りに戻す薬はないので、根本的な治療は手術による弁修復術です。また、手術治療の至適時期としては、心筋障害が進行する前に心臓弁を修復することが重要です。 
弁修復術には、「弁置換術」と「弁形成術」があります。弁置換術は弁を切除して人工の弁である「機械弁」または「生体弁」に置き換える手術、弁形成術は弁を温存して形を整え修復する手術です(図5)。それぞれ特徴があり(表1)、患者さんの状態に応じて修復方法を決定します。

最後に

日常生活で、息切れ、動悸、胸痛、浮腫、倦怠感などの症状が現れる場合、心臓弁膜症が原因かもしれません。
長寿化が進む超高齢社会では、健康を維持して元気に過ごすためにも、心臓弁膜症を早期に発見して治療することが望ましいです。
何か気になる症状がある場合は、戸塚共立第2病院の心臓血管外科をご受診ください。